夏との想い出。

彼は夏が好きでした。

あまりにもその「季」が強すぎる時は、夏を宥めながら

それでも太陽の光を浴びて汗を搔き、冷たい水を飲みながら

幸せを感じていました。

 

今年は月が変わっても夏がしばらく居続けていて、

彼は夏との語らいを日々楽しんでいました。

けれども、別れは突然やって来ました。

週が変わったその日、夏がいきなりいなくなっていたのです。

 

外に出てみると空はどんよりと曇っていて、涼しい北風が

吹いているばかり。

彼はしばらくの間、彷徨うように夏を探しましたが、

その姿はどこにも見当たりません。

 

彼は悄然と家に戻り、しばらく外に出ようとしませんでした。

そんな数日が過ぎたある日。目覚めてカーテンを開けると、

そこには燦々と輝く太陽と夏が戻って来ていたのです。

彼は嬉々として外に飛び出ると夏との再会を喜び、

お別れも言わずにいなくなった理由を問いました。

 

けれども夏は、

「今は秋にちょっと季を借りているだけ。私の季はもう

終わったのだから」

と寂しそうに告げて、それから数日後にまた何も告げずに

去って行きました。

 

けれども、もう彼は寂しくはありません。

何故なら、これから秋、冬、春が代わり番こにやって来て、

その後には再び夏と再会できるのですから。